Vol.71

歯医者は大工で芸術家!?

学生の頃、同期の実家が歯科医院で医院見学に行ったことがあります。院長先生であるお父さんは少し珍しい経歴の歯医者さんで、フィリピンで歯科医師免許を取得した後に、日本の大学の歯学部に編入し、歯科医師になった方でした。

当時の僕は、卒業したら一旦歯医者から離れて別の道を進み、自分の中で人生経験を積もうと考えていた頃でした。悩みも多く、今後の人生や歯科医師としての仕事観などについても、院長先生は学生だった僕の色んな質問にも気さくに答えてくれたことを覚えています。

家に泊めてもらい、これまであった紆余曲折の歯科医師人生を非常に熱く語ってくれた中で、印象的だった言葉が「歯科治療は大工仕事であり芸術」というものでした。

当時はあまりピンと来なかったのですが今はわかります。差し歯1本を治療する際に建築物に例えると、下地を整え(歯石を取って歯茎を綺麗に)、しっかり基礎を打ち(差し歯の土台を作り)、自然に調和した建築物を建てる(隣の歯や噛み合わせの歯との色調や形が調和した冠を被せる)ことで長持ちします。

「神は細部に宿る」というドイツの建築家の有名な格言がありますが、この言葉を胸に治療にあたっている歯科医や技工士さんは多いと思います。機械も材料も日進月歩で進化していくように、臨床技術も日々研鑽です。