Vol.47

ばあちゃんの入れ歯

4年前に旭川に帰ってきて医院を継いだ時、当時95歳だった僕のばあちゃんの歯は一本も無く上下総入れ歯だったのですが、失くしてしまったのか何故か下の入れ歯は使わずに過ごしていました。

そこで僕は「よし!ばあちゃん、新しい入れ歯を作ってトンカツ食べられるようになろう!これがばあちゃんの人生最後の入れ歯だー!」と意気込んで入れ歯治療を始めました。

新しい入れ歯が入って少し経ち馴染んだ頃、ばあちゃんが食べ物がこんなに美味しく感じるようになってびっくりだわと言ってくれました。今までは、上しか入れ歯を使わずにいたので、噛めていなく、食材の味が滲み出ていなかったようなのです。「たくあん美味しいわ〜」ってニコニコしていて。

やっぱり食べる幸せって人生で最後まで大切だなと思います。食べる楽しみはそのまま生きる活力に繋がるので、歯科医療は生きる力を支える生活の医療と言われています。最後の入れ歯と思って作ったばあちゃんの入れ歯は、その後2回紛失して作り直したのはここだけの話ですが・・・。

そんなばあちゃんは今年2月に99歳で大往生し他界しました。昨年末に一次退院できた時、小さく切ったトンカツを美味しそうに食べていたそうです。入れ歯治療は機能回復のためのリハビリのような、すぐに結果が出にくい難しさがありますが、歯科技工士さんの力も借りて、生きる力を支える手助けになれれば良いなと思っています。